
大きなミスをしてしまったとき、人はあっという間に「終わった」「もう取り返しがつかない」と感じてしまいます。頭の中で最悪の未来ばかりが膨らみ、胸のあたりがずっとざわざわするような感覚になるものです。
ただ、その「取り返しがつかない」という印象は、事実そのものではなく、今の感情がつくり出している物語にすぎません。起きてしまった出来事は変えられませんが、その出来事にどんな意味を持たせるかは、これからゆっくり選び直せます。
そのミスは本当に「取り返しがつかない」のか?
大きなミスをした直後は、頭の中で感情と事実がぐちゃぐちゃに絡まり合います。「怒られる」「嫌われる」「クビになるかもしれない」といった不安が膨らみ、冷静な判断ができなくなる状態です。
まず必要なのは、起きた出来事そのものと、自分の頭の中で広がっているストーリーを切り分けること。感情を押し殺すのではなく、「今すごく怖い」と認めながらも、一つずつ整理していくことで、少しずつ呼吸が戻ってきます。
「取り返しがつかない」と思っているのは今の感情だけ
大事なのは、「ミスをした」という事実と、「取り返しがつかない」「人生が終わる」といった感情や想像をちゃんと分けて眺めてみることです。紙に二つの欄をつくり、片方には「起きたことだけ」、もう片方には「頭の中で浮かんでいる不安や怖さ」を書き出してみると、自分の中で何が起こっているかが見えてきます。
事実の欄には、「メールを誤送信した」「納期を一日勘違いした」と、実況中継のように書いていくイメージです。もう一方には、「もう信頼されない気がする」「評価が全部なくなる気がする」といった心の声を書き出してみる。こうして棚卸しをすると、「痛いミスではあるけれど、『人生が終わる』までは言い過ぎだったかもしれない」と気づくこともあります。感情を否定せずに、いったん紙の上に出してあげる。この小さな作業が、心を落ち着かせる最初の一歩になります。
「事実」は変えられないが「意味」は変えられる
出発点はとてもシンプルです。「起きてしまった事実は動かせない。でも、その出来事をどう捉えるかは選べる」という考え方です。ミスをした瞬間は、どうしても「最悪だった」「なんであんなことをしたのか」と自分を責めてしまいがちです。ただ、その時間が長くなるほど、行動に使えるエネルギーが削られていきます。
同じ出来事でも、「取り返しのつかない終わり」と見るか、「痛いけれど、大きく変わるきっかけ」と見るかで、その後の展開が変わります。もちろん、いきなり明るく考えようと無理をする必要はありません。まずは、「確かに大きなミスだった。でも、このミスをどう活かすかを考えることもできる」と、考え方が二つあることだけ思い出してみる。その切り替えが、陽転のスイッチになっていきます。
ほとんどのミスで「命までは取られない」と知る
パニックになっているとき、人は極端な未来を頭の中で描きがちです。「会社が潰れるかもしれない」「損害を全部払えと言われるかもしれない」といった想像に巻き込まれていくと、体も固まり、動けなくなります。
ただ、多くの会社にはミスが起きることを前提とした仕組みがあり、上司も本当は「どうリカバリーするか」を見ています。もちろん、責任はありますし、叱られる場面もあるでしょう。それでも、仕事上のミスだけで、いきなり全てが終わるケースはそう多くありません。
「命までは取られない」「人生そのものまでは否定されていない」。そう思い出すことは、決して開き直りではなく、冷静さを取り戻すための土台づくりです。この土台があると、「怖いけれど、動こう」というエネルギーが少しずつ戻ってきます。
信頼を回復し、被害を最小限にする3ステップ

大きなミスをしたときに、結果を大きく左右するのは、最初の数時間の動き方です。内容そのものを変えることはできなくても、「どれだけ早く」「どのように」動くかで、相手の受け取り方も被害の広がり方も変わっていきます。ここでは、すぐに意識したい三つのステップを整理しておきます。
「怒られる恐怖」を脇に置き、最速で報告する
人は誰でも怒られるのが怖いので、「もう少しあとで言おう」「自分で何とかしてから報告しよう」と引き延ばしたくなります。ただ、ミスの場面で本当に致命的なのは、内容そのものよりも「報告の遅れ」です。早い段階で上司が状況を把握できれば、会社としての対応策を打てるからです。
報告の第一声は、次のようにシンプルでかまいません。
「至急、お時間いただきたい件があります」
「自分の対応で問題が発生しましたので、現状を共有させてください」
大事なのは、「隠さない人だ」と感じてもらうこと。完璧であることよりも、誠実であることのほうが、長い目で見たときの信頼につながります。
「どう解決するか」のリカバリー案をセットで持っていく
報告に行くときは、「何をしてしまったか」だけでなく、「今どうなっているか」「これからどう動こうと考えているか」も一緒に伝える意識を持つと、上司の受け取り方が変わります。
たとえば、「納期を一日勘違いしていました」という報告なら、
現状:相手先にはまだ納期の遅れを伝えていない
自分案:今日中にお詫びの連絡を入れ、明日中に納品する段取りをつける
といった形で、少なくとも一つの案を用意しておくイメージです。完璧な案である必要はなく、「何とかしたい」という姿勢が伝わることが大切です。そのうえで、上司の視点を借りて、より良い打ち手に整えていけば、ミスを一緒に乗り越える空気が生まれていきます。
「でも」「だって」を封印し、責任を全うする
人から叱られそうになると、反射的に「でも」「本当は」「相手も悪くて」と言いたくなります。ただ、その一言が出た瞬間に、相手は「責任から逃げようとしている」と感じてしまうものです。
報告の場面では、次のような言葉選びが役に立ちます。
「弁解の余地もありません。本来であれば、事前に〇〇を確認すべきでした」
「ご指摘の通りで、自分の判断が甘かったと感じています」
「ご迷惑をおかけした分、この後の対応で挽回していきます」
こうした言葉は、自分を必要以上に責めるためではなく、「逃げずに向き合っている人だ」と感じてもらうための土台です。責任を引き受ける姿勢は、ミスそのものよりも強く記憶に残ることがあります。
相手の怒りを「期待」に変える謝罪の仕方

大きなミスのあとに必要なのは、「ひたすら頭を下げること」だけではありません。相手は怒りの奥に不安や失望を抱えています。その気持ちに寄り添いながら、「これからどうしていくか」を一緒に描けるようになると、同じ出来事が「信頼が深まるきっかけ」に変わることもあります。
相手が求めているのは土下座ではなく「安心」と「未来」
怒っている人を前にすると、「もっと深く頭を下げないと」「何度も謝らないと」と焦ってしまいがちです。ただ、多くの場合、相手が本当に知りたいのは「この状況はどうなるのか」「同じことは繰り返されないのか」という二つの点です。
たとえば、顧客への謝罪なら、
- 今回どこで何が起きたのか
- いつまでにどこまで回復できるのか
- 今後、同じことが起きないように何を変えるのか
この三つを、感情的な言葉より先に、落ち着いて伝えることが大切になります。「誠意」という言葉は曖昧ですが、「不安を減らし、未来の安心を増やす行動」と定義すると、何をすべきかが見えやすくなります。
怒りを受け止める話し方
相手が強い口調で責めてくるときほど、最初に必要なのは反論ではなく「受け止める」一言です。
「おっしゃる通りです。今回の件は、弁解の余地がありません」
「ご不安にさせてしまったこと、本当に申し訳なく思っています」
こうしたクッション言葉を添えたうえで、「現状」と「今後の対応」を丁寧に伝えていきます。声のトーンは少しゆっくりめに、語尾を強く言い切りすぎないことも、相手の感情を落ち着かせるうえで効果があります。
反対に、
「そんなつもりではなくてですね」
「自分だけの責任ではなくて」
といった言葉は、相手の怒りを増幅させやすい表現です。「言いたいことはたくさんあるけれど、まずは受け止める」と決めておくと、コミュニケーションの質が変わっていきます。
「この失敗のおかげで強くなれた」と言わせるクロージング
謝罪の終盤では、「このミスをどう未来につなげるか」を短く言葉にしておくと、印象が変わります。
「今回の件を踏まえ、〇〇のチェック工程については、自分が中心になって見直します」
「二度と同じご迷惑をおかけしないよう、〇月中に新しいルールを整えます」
といったコミットメントは、相手の頭の中に「この人は、この件を通じて強くなるのだろう」というイメージをつくります。ミスを完全に消し去ることはできませんが、「あの出来事があったから、今の安心がある」と言ってもらえる未来はつくれます。
どうしても心が折れそうな時の切り替え方

どれだけ正しい対処法を頭で理解していても、心が折れそうなほど落ち込んでいるときは、動くためのエネルギーが足りません。そんなときに、自分の心を少しずつ立ち上がらせるための小さなワークがあると、行動に戻りやすくなります。
「事実はひとつ、考え方はふたつ」でよかったを探す
一つの出来事に対して、考え方はいくつもあります。「大きなミスをして怒られた」という事実があったとき、
「自分はやっぱりダメだ」という意味づけ
「今のうちに体制の甘さに気づけてよかった」という意味づけ
どちらも選べます。いきなり明るいほうだけを選ぶのは苦しいので、まずは暗い側面にも「そう感じているんだね」と寄り添ったうえで、「もう一つの見方もあるとしたら、何だろう」と問いかけてみる。
ノートに「嫌だったこと」と「よかったかもしれないこと」を一行ずつ書いていくと、少しずつ心の中に空気が入ります。「完璧に前向きになること」を目指すのではなく、「暗いだけで終わらせない」という感覚を持てると、現場で踏ん張る力が変わっていきます。
失敗を「人生のネタ」にしてしまう
今は到底そう思えなくても、大きな失敗は、振り返ったときに「一番笑い話になるエピソード」になることがよくあります。人は、苦しい経験ほど、時間がたつと物語として語りたくなるものです。
そこで、少しだけ未来の自分を想像してみます。「数年後、誰かにこの話をするとしたら、どんなふうに語るだろう」と考えてみるのです。
「あの時、本気で落ち込んだけれど、あの経験があったから、今はミスに強くなった」と語る自分をイメージすると、今の出来事が「永遠の失敗」ではなく、「長い物語の一章」に変わります。視点が時間軸の上に広がると、目の前の絶望だけに飲み込まれにくくなります。
クビや損害賠償は?法的なリスクへの対処

「取り返しがつかない」と感じる背景には、「クビになるのでは」「損害を全額請求されるのでは」という法律的な不安も隠れています。ここで、基本的な考え方を押さえておくと、不必要な恐怖に振り回されにくくなります。
日本の法律では、ミスだけでの即時解雇はハードルが高い
日本の労働法制では、会社が一方的に従業員を解雇することに厳しい制限があります。単発のミスや、能力不足だけを理由に、突然「明日から来なくていい」と言われるケースは、一般的には認められにくいとされています。
もちろん、横領や重大なコンプライアンス違反など、故意に近い行為で会社に大きな損害を与えた場合は別ですが、多くの人が心配している「仕事上のミス」のレベルで、直ちに解雇となる場面はそう多くありません。
不安が強いときは、一人で抱え込まず、労働相談窓口や法テラスなど、公的な機関に相談するという選択肢も視野に入れておくと安心です。
個人への損害賠償が請求されるケースとされないケース
会社の仕事中に起こしたミスで生じた損害は、基本的には会社が負うことが前提になっています。従業員の働きから利益を得ている分、リスクも引き受けるという考え方があるためです。そのうえで、従業員に対して損害賠償を求める場合も、「わざとだったのか」「重大な不注意だったのか」といった点が重視されます。
通常の注意力で仕事をしていて起きたミスに対し、個人に全額の賠償を求めるようなケースは、現実的にはかなり限定的です。もちろん、「何をどこまで負う必要があるのか」は個別の事情によって変わります。不安な場合は、一度専門家の意見を聞いて、事実に基づいた判断材料を持つことが大切です。
今の会社に「残る」か「辞める」か後悔しない決断の基準

ミスをきっかけに、「ここに居続けるべきかどうか」を考え始める人もいます。まずは今の会社で信頼回復に取り組むことが、次の職場でも通用する自信につながることが多いものです。ただ、どれだけ努力しても心身がすり減っていくばかりの環境であれば、「場所を変える」という選択肢も視野に入れてよいでしょう。
「逃げ」ではなく「戦略」として環境を変える
環境を変えることに対して、「逃げたと思われるのでは」という不安がつきまといやすいものです。ただ、自分の力がまったく活かせない職場に居続けることは、長期的に見ると大きな損失にもなります。
ミスをした直後は、とにかく信頼を取り戻そうと必死になりますが、「そもそも、この会社の価値観や上司の考え方と、自分は合っているのか」と一歩引いて見てみる視点も大切です。信頼回復に向けてできることをやり切ったうえで、「この場では学ぶことを学び切った」と感じるなら、次のステージに進むことも一つの戦略と言えます。
辞める前に確認したい「自分の心身の限界ライン」
環境を変えるかどうかを考えるときは、感情だけで決めず、自分の心と体の状態も一緒に見ておきたいところです。判断の目安として、次のようなポイントを整理してみると、状況が客観的に見えてきます。
残るべき状況/辞めることを検討したい状況
・残る側のサイン
- 仕事のミスはつらいが、食事や睡眠はおおむね取れている
- 上司や同僚と、ミスについて話し合える空気がある
- 叱られはしても、人格そのものを否定されている感じは少ない
・辞める側のサイン
- 食事が喉を通らない日が続いている
- 眠れない、朝起きられない状態が長く続いている
- 日常的に人格を否定するような言葉を浴びている
こうしたサインが複数当てはまるときは、仕事よりも自分の命と健康を優先する必要があります。一人で抱え込まず、医療機関や公的相談窓口に早めに頼る選択肢も準備しておくと安心です。
仕事が上手くいかないときは新しい自分になるチャンス

仕事が上手くいかずに悩んだときは、自分自身について深く考える機会です。言い換えれば、「このタイミングで悩んでよかった」と自分を褒めてもよいということです。
どんな悪い出来事にも『よかった』は存在します。大切なのはそれに気付けるかどうかです。目標がないと悩んだことで、逆に『よかったこと』は何でしょうか。
- 仕事への価値観や人生について考えることができた
- もっと成長しなきゃとモチベーションが高まった
- 乗り越えたことで耐性ができた
- 糧としたことで前よりも精神的に強くなった
仕事の失敗を糧に成長したいと願うのであれば、『陽転思考』を学んでみてください。
陽転思考とは、ネガティブな事実からも「よかった」を探す思考法です。ネガティブな感情を許可し、それらを受け入れてから切り替えるという方法であり、マイナスのことを否定しません。
良いとか悪いという二元論ではなく、「すべての事実はひとつですよ。見方を変えて見ましょう」という考え方であり、ビジネスにおいても重要な考え方になります。
『陽転思考』については、こちらのページで詳しい解説しているので是非ご覧ください。
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