職場には、「自分はできる」と思っているのに、実際には成果が出ていない人がいます。あなたの周りにも、そんな人が思い浮かぶかもしれません。もしかすると、過去の自分がそうだったという人もいるでしょう。

けれど、実はこの「できると思い込む」状態は、決して悪意や傲慢から生まれるものではありません。人は誰でも、「できない自分」を直視するのが怖くて、無意識に“できるフリ”をしてしまうことがあるのです。

「仕事ができないのにできると思っている人」の特徴や心理、そして周囲の人としてどう接すればよいのかを、“責める”ではなく“理解する”視点からお伝えします。

「仕事ができないのにできると思っている人」の特徴

「自分は十分に仕事ができている」と感じているのに、実際には成果や評価が伴っていない人がいます。こうした人は、努力の方向性や結果を客観的に把握できていないケースが多いのが特徴です。たとえば、他人のサポートや偶然の成功を“自分の実力”だと捉えてしまうこともありますね。

また、周囲のフィードバックを受け入れられず、「自分は正しい」と思い込む傾向も見られます。これは性格の問題ではなく、できない自分を認めるのが怖いという心理的防衛が働いているから。自信過剰ではなく、むしろ自信のなさが“できるフリ”を生み出しているとも言えるでしょう。

自分のスキルを正しく評価できない人

仕事ができないのにできると思っている人の多くは、「自分の評価軸」と「社会の評価軸」が一致していません。努力した、時間をかけた、やる気があった、これらを成果だと錯覚することで、自己評価が高くなっているのです。

一方で、客観的な基準（数字・期限・成果物）を意識できていないため、自分がどの水準にいるのかを把握できません。また、過去の成功体験に固執する傾向もあり、「以前できたから今回もできるはず」と無意識に思い込むケースも多く見られます。

評価の基準が主観的なままであることが、過信の根本的な原因です。

周囲のサポートに気づかず「自分だけでできている」と思ってしまう人

職場では多くの成果がチームや組織の連携によって生まれますが、本人がその構造に気づかないことがあります。背景には、「自分の成果を証明したい」という承認欲求と、周囲の助けを軽視する心理が働いています。

人は、自分の努力を中心に記憶しやすく、他人の貢献を記憶しにくい特性を持っています。そのため、結果が出ると「自分の実力で成し遂げた」と錯覚しやすくなるのです。

この心理的メカニズムにより、本人の自覚がなくても、周囲との評価のズレが大きくなっていきます。

失敗を「人のせい」にしやすい傾向

自分の力を高く見積もっている人ほど、失敗を自己否定と結びつけやすいため、他人のせいにする傾向があります。これは「自己防衛」の一種で、ミスを受け入れることによる心理的ダメージを避けようとする働きです。特に、完璧主義的な性格やプライドの高い人ほど、自分の失敗を直視できません。

そのため、環境・上司・部下といった外部要因に原因を求め、「自分は悪くない」という認知を保ちます。この思考は一時的な安心感をもたらしますが、客観性を失わせ、同じミスを繰り返す要因にもなります。

なぜ「できると思ってしまう」のか？心理的な背景

自分の実力を過大評価してしまう背景には、いくつかの心理的要因が関係しています。それは「自信があるから」ではなく、むしろ「自信を失うことへの恐れ」から生まれるケースがほとんどです。

人は、心の中で“自分の理想像”を維持しようとする傾向があります。その理想像が崩れそうになると、現実を否定してでも「できている」と思い込みたくなるのです。この思考は無意識のうちに形成され、自分でも気づきにくいのが特徴です。

承認欲求が強く、失敗を認めるのが怖い

「できると思い込む」心理の背景には、他人から認められたいという強い承認欲求があります。人は誰しも、評価を得ることで安心を感じる生き物です。しかし、その承認欲求が過剰になると、失敗を「存在の否定」と結びつけてしまうようになります。

そのため、失敗や注意を受けた際に現実を受け入れられず、「自分は正しい」と信じ込むことで心の安定を保とうとします。この自己防衛の積み重ねが、他人との認識のズレを生む原因になります。

“できない自分”を受け入れられない

人は「できない」という状態を、自分の価値の低下と結びつけて考えてしまう傾向があります。これは、幼少期からの「できる＝褒められる」「できない＝叱られる」という経験に由来しています。

それによって、できない自分を認めることが、無意識のうちに“恥ずかしいこと”として処理されてしまうのです。こうした心理を持つ人ほど、現実を直視することが苦痛であり、理想の自分像を守るために「できている」と信じ込みます。結果として、他者から見た評価と本人の認識に乖離が生じるのです。

周囲のやさしさに甘えて気づけない

同僚や上司がフォローしてくれる環境では、自分の欠点に気づきにくくなります。相手が直接的に指摘を避けたり、問題をさりげなくカバーしたりすることで、本人の中では「自分は問題なくやれている」という誤解が固定化されていきます。

また、日本の職場文化には「波風を立てない」「直接注意しない」といった傾向があり、それが気づきをさらに遅らせます。

このような環境要因が重なることで、本人の自己評価が現実と乖離していくのです。やさしさが、無意識の過信を助長する構造になっているとも言えます。

職場で「仕事ができない人」に出会ったらどうすればいい？

職場に「自分はできる」と思い込んでいる人がいると、周囲との連携にズレが生じやすくなります。ただし、そうした人の言動の背景には、「否定されることへの恐れ」があります。表面的には自信があるように見えても、内面では「認められたい」「失敗を恐れている」状態にあるのです。

そのため、感情的に衝突するよりも、相手の心理構造を理解することが重要です。このタイプの人は、客観的な視点を持ちにくく、自己防衛的に振る舞う傾向が強いため、外からの評価よりも“共感”を求めている場合が多いものです。

責めるよりも、「何がうまくいかなかったか」を一緒に整理してあげる

このタイプの人が他責的になるのは、責任を逃れるためではなく、自己防衛反応として起こるものです。人は責められた瞬間に「自分を守らなければ」と感じ、反射的に正当化します。それが「言い訳」や「他人のせい」という形で現れます。

つまり、対話が成り立たない原因は“防衛反応の発動”にあるということ。この心理的仕組みを理解することで、相手の反応が感情ではなく不安から出ていることがわかります。不安を刺激されると、人は現実を受け入れにくくなります。

「あなたのやり方もいいけど、こんな方法もあるよ」と提案する

プライドの高い人ほど、自分のやり方を否定されると防御的になります。これは、方法の否定を“人格の否定”として捉える心理によるものです。そのため、同じ内容でも伝え方によって受け止め方が大きく変わります。

仕事ができると勘違いしている人に対しては、柔らかい表現を使うことで、相手の自己肯定感を保ちながら現実を伝えやすくなります。このタイプの人が聞く耳を持てない理由は、内容ではなく「伝え方」によって“自己否定感”を刺激されているからなので、一旦受け入れてから、提案するというワンクッション置くだけで変わることも少なくありません。

感情ではなく“事実ベース”で伝える

過信している人は、他人の感情的な言葉を「攻撃」として受け取る傾向があります。批判を“人格否定”と誤解してしまうためです。

一方で、数字やデータといった客観的な事実は、感情の影響を受けにくいため、受け入れやすくなります。そのため、相手の“感情的な防衛スイッチ”を作動させないためには、感情ではなく事実で伝える必要があります。

このように、認識のズレが生まれるのは「情報の伝わり方」に原因がある場合も多いのです。

「できると思っている自分」に気づくための方法

自分の能力を過大に評価してしまう人は、しばしば「自分を客観的に見る力」が弱まっています。失敗や欠点を受け入れることに対する心理的な抵抗が原因です。

人は、自分の“理想の姿”を守ろうとする本能的な傾向を持ちます。そのため、現実が理想に届いていないとき、脳は自動的に「うまくいっている」という認知を作り出し、自己像を守ろうとするのです。この「自己正当化」は誰にでも起こる自然な反応であり、気づかないうちに過信を強化してしまいます。

そうならないためには、自分は完璧じゃないことを認めて、すべての事象を学びと捉えることが本質的な解決策になります。

「自分は完璧じゃない」と認める

多くの人が「完璧ではない」と認められないのは、過去の成功体験や他人からの期待が強く影響しているためです。成功した経験があるほど、「次もできなければならない」という無意識のプレッシャーが生まれます。

そのため、現実が理想に届かないときに強いストレスを感じ、「まだ自分はできている」と思い込むことで心の均衡を保とうとします。この心理的構造が続くと、柔軟性が失われ、新しい発想や学びを拒む傾向が強まるでしょう。完璧であり続けたいという気持ちが、結果的に成長を妨げる壁になります。

本当にできる人ほど周囲に感謝できることを知る

実力がある人ほど、周囲の支えや環境の影響を理解しています。過去に苦労や失敗を経験したことで、成功が一人の力では成り立たないことを知っているからですね。感謝の気持ちが強い人は、自分を過大評価しにくく、現実を冷静に見ることができます。

一方、過信する人は、自分の力を過大に捉え、周囲の貢献を無意識に過小評価してしまいます。感謝とは、他人を認めるだけでなく、自分の限界を知る行為でもあります。それが、結果的に現実を歪めずに受け入れる“素直さ”につながるのです。

できない自分を責めるより「学びの途中」と捉える

物事を「成功か失敗か」で判断する人ほど、自分を厳しく評価しすぎてしまいます。一方、「今は学びの途中」という視点を持つ人は、現状を受け入れることができるため、心が安定しています。

この違いは、結果よりも過程を重視するかどうかにあります。

過信する人は、「結果で自分の価値を証明しなければ」と感じる傾向が強く、現実のズレを受け入れられません。しかし、「学びの途中」という考え方を持てる人は、現実を受け止めながら成長していける柔軟さを持っています。この心理的余裕が、素直さを支える土台になっています。

仕事が上手くいかないときは新しい自分になるチャンス

仕事が上手くいかずに悩んだときは、自分自身について深く考える機会です。言い換えれば、「このタイミングで悩んでよかった」と自分を褒めてもよいということです。

どんな悪い出来事にも『よかった』は存在します。大切なのはそれに気付けるかどうかです。目標がないと悩んだことで、逆に『よかったこと』は何でしょうか。

• 仕事への価値観や人生について考えることができた
• もっと成長しなきゃとモチベーションが高まった
• 乗り越えたことで耐性ができた
• 糧としたことで前よりも精神的に強くなった

仕事の失敗を糧に成長したいと願うのであれば、『陽転思考』を学んでみてください。

陽転思考とは、ネガティブな事実からも「よかった」を探す思考法です。ネガティブな感情を許可し、それらを受け入れてから切り替えるという方法であり、マイナスのことを否定しません。

良いとか悪いという二元論ではなく、「すべての事実はひとつですよ。見方を変えて見ましょう」という考え方であり、ビジネスにおいても重要な考え方になります。

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